研究テーマ

2021年 06月 28日

1. 糸球体硬化責任因子BMP4-Smad1経路を中心とした糖尿病性腎臓病をはじめとする進行性腎障害の進展の病態解明とバイオマーカー開発による診断法の確立

 当研究室では転写因子Smad1が糖尿病条件下でIV型コラーゲンのプロモーターに結合し、糸球体硬化に関わる遺伝子群(IV型、I型コラーゲン、alpha-smooth muscle actinなど)を直接制御しうることを発見しました (J Biol Chem. 2004;279:14201-6.)。次にBMP4が、Smad1を介して糸球体硬化発症の中心的な役割を果たすことをBMP4全身誘導マウスで示しました (J Biol Chem. 2011;286:20109-16.)。続いてBMP4ノックアウトマウス、BMP4中和抗体投与やSmad1ノックアウトマウスにて糖尿病性腎臓病病変が抑制されることを確認しました (Diabetes. 2015;64:2978-90.)。また、全トランス型レチノイン酸がBMP4発現を直接制御し、糖尿病性腎臓病病変を抑制することも見出しました (Am J Physiol Endocrinol Metab. 2019;316:E418-431.)。以上からBMP4/Smad1シグナルが糖尿病性腎臓病の発症と糸球体硬化形成において中心的な役割を果たすことをすでに証明しました。加えて、この経路は腎炎症候群における糸球体硬化にも関与していることも明らかになり、糸球体硬化を惹起する共通する責任経路であることを示すことができました (J Biol Chem. 2005;280:7100-6.)。また、尿中Smad1が糖尿病性腎臓病の糸球体硬化を微量アルブミン尿より正確に反映し、その発症を検出する尿中バイオマーカーとして有用であり、その予後を予測できることを報告しました (Diabetes. 2018;67:986-93.)。さらに糖尿病性腎臓病の進展増悪に関与する古典的なサイトカインであるTGF-beta1とのクロストークも見いだしました (Sci Rep. 2018;8:10548.)。そこで、BMP4/Smad1シグナルを抑制できる化合物をスクリーニングできる系を利用して、糖尿病性腎臓病治療薬を探索しています。
図 糖尿病性腎臓病の分子病態 (日腎会誌2011;53:1000-5)



2. 慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)における、糸球体構成細胞(糸球体上皮細胞(ポドサイト)、糸球体内皮細胞、メサンギウム細胞)、尿細管間質細胞(近位尿細管、集合管、pericyte)それぞれに対する遺伝子改変動物を用いた病態解明

慢性腎臓病は透析原疾患であるだけでなく、心血管疾患発症の著明な危険因子であり、死亡率も高く、世界的にその対応が急務となっています。その進行増悪経路の解明には腎臓の各構成細胞における機能解析は不可欠です。当研究室では、特に、これまでに不可能であったin vivoでのメサンギウム細胞特異的な分子の機能解析のシステムを世界に先駆けて確立しました (J Am Soc Nephrol. 2017;28:2879-85.)。そのシステムを使用してmTORC1-S6 kinase pathwayがヒト腎炎におけるサメサンギウム基質増加の責任因子であることを証明しました。継続して、腎疾患進展増悪に対する腎の各構成細胞の役割を解明しつづけています (Sci Rep. 2018;8:13011. Biochem Biophys Res Commun. 2021;556:142-8.)。さらに、メサンギウム細胞におけるエピジェネティクス制御とミトコンドリア制御の関連解明などによる取り組みを始めています。
図 メサンギウム細胞特異的標的分子ノックアウトマウスの確立 (J Am Soc Nephrol. 2017;28:2879-85.)

3. 尿中エクソソームを利用した尿中バイオマーカーの確立

腎疾患の診断と、治療反応性、予後予測において腎生検が不可欠であるが、侵襲的手技であり、出血傾向のある方には施行できないなど、その限界も存在します。その代用となる尿中バイオマーカーの探索は多数おこなわれているが、その意義が確立したマーカーはほとんどありません。主に各個人の病態に依存する尿中pHの違いや尿路感染症の有無などが尿中マーカーを検出するELISA系の確立を難しくしています。
尿中エクソソームは様々な細胞が分泌する小型(直径 30 ~100nm 程度)の膜小胞で、殆どの体液(血液や尿、髄液など)や細胞培養液中に存在しています。尿と比較して、特に、含有するRNAの安定性が示されており、新しい尿中バイオマーカーの探索標的として注目されています (Int J Biol Sci. 2013;9:1021-31.)。これまでにWT1mRNAといったポドサイト特異的蛋白のmRNAや、腎疾患に関わる代表的サイトカインであるTGF-b1下流の転写因子であるElf3の尿中エクソソーム内における存在意義を当研究室にて解明してきましたが(PLoS One. 2019;14:e0216788. J Med Invest. 2018;65:208-15.)、問題点として、尿中エクソソームを回収するための古典的手技が煩雑であること、市販の回収キットが高価格であること、さらに回収率が低いことがあげられます。その点を改善させるため、新たな回収手段を産学連携にて確立しており、その手法をいかして新たな新規分子の意義を検討中です。
図 Elf3の発現レベルと測定後のeGFRの変化 (PLoS One. 2019;14:e0216788.)

4. 透析患者の予後改善と生活の質の向上をめざした臨床研究

 日常診療で疑問に感じた点をかかげ、徳島の主要な透析病院との共同研究もくめ、臨床研究を施行しています。これまでに報告した内容の一部を提示します。
 
透析穿刺針の径によって最適な血流量の設定 (Artif Organs. 2015;39:627-34.)
アルブミン漏出の酸化型アルブミンへの影響 (J Artif Organs. 2016;19:310-4.)
アルブミン漏出量と長期予後の関連の解析 (Ther Apher Dial. 2017;21:378-86.)
年齢別の予後因子の違いの解析 (J Artif Organs. 2018;21:94-101.)
透析患者の低ナトリウム血症の意義 (Renal Replacement Therapy. 2017 3:55.)
アルブミン漏出のグリコアルブミン値への影響 (J Artif Organs. 2019;22:264-7.)
透析中の下肢レジスタンス運動による変化 (Renal Replacement Therapy. 2021 7:21)
アルドステロンとインスリン抵抗性の意義 (Ther Apher Dial. 2018;22:142-51.)
透析患者における血中FGF23濃度の意義 (J Bone Miner Metab. 2020;38:70-7.)

図 血流量と脱血圧測定の模式図 (Artif Organs. 2015;39:627-34.)